のどかとはとても言えない新宿の片隅で。 act:1



 
「村雨ってさー、刺青似合いそう」
「…ぁあ?」
さらりと妙な事を言ってのけた龍麻に、村雨は思わず咥えていた煙草を落とした。
「いきなり何だよ先生…」
「いやあ、こーして見るとさあ」
一緒に並んんで歩いているのだが、村雨は龍麻より頭半分ほど背が高い。
その村雨をわざと下から見上げるように顔を覗き込む龍麻。
「村雨は迫力があるからねー」
「…あるから、なんだ?」
「やー、若頭とかみたく、彫り物が背中にあったら完璧かと」
瞬時、村雨が硬直した。
「先生、今なんつった」
「ん?だから彫り物あったら完璧って」
「その前だ」
「その前?」
「誰みたいにだって?」
「ああ、若頭?」
…がしっと。村雨が龍麻の肩を掴んだ。強引に自分の方を向かせる。
「……誰だ、そいつぁ」
声がいつもより低い。…ていうか、ドスのきいた声で。
眼もいつになく真剣だ。
しかし龍麻は全然悪びれない調子で答える。
「若頭は、京都に修学旅行行ったとき出会ったナイスミドルのヤーさまなんだけど」
「…そいつが、あんたとどういう関係なんだ」
「どういう関係っつーか」
「答えろ、先生」
「…ボコにした、されたという関係」
「………」
脱力しかかる村雨。どうも話がかみ合わない。が、気を取り直して。
「先生、俺が聞きたいのはなあ、あんたがどういう経緯でそいつの彫り物なんざ拝んだのかって事なんだよ」
「いや、残念な事に拝んでないんだけど」
「…………」
「ヤーさまといえばやっぱ背中に刺青は基本!だからきっと若頭にもあるに違いないよな」
その言葉に、本格的に村雨は脱力したらしい。
「いや…そりゃ偏見ってやつじゃねーのか先生……」
すっかり毒気を抜かれてしまい、村雨はやれやれともう一本煙草を咥えた。
龍麻は相変わらず刺青について熱く(?)語りを入れている。
「うーん、格好いいと思うんだけどなあ、刺青」
「変なもんに興味があんだな、先生」
「銭湯なんかだと超絶に注目度あがりまくり。どうよ?村雨」
「―――――なんで俺なんだ」
「似合いそうだから」
…それは、かたぎの人間には見えないから、と言外に言ってはいないか、龍麻。
「ふぅ…先生のご希望に添えなくて悪ぃが、俺は御免だな」
「なんでかー」
「知ってるか?先生。彫り物があるとな、サウナとかソープとか入店お断りの場合があるんだぜ」
「…サウナはともかくとしてだ……行ってんのかこの不健全野郎」
「不健康よりゃマシでね」
「うわー否定してねえ…さすが村雨」
「……感心されると悲しいぜ先生…」
はあ、と村雨は紫煙を下に吐き出した。
「まあ、そんなんは冗談としてもよ、刺青なら先生も似合うんじゃねーのか」
「なんで俺だ」
「先生の白い肌に緋牡丹とかが彫ってありゃあ、悩殺モンだと思うがな…」
「なっ……なんで知ってんだよ!!見たのかよっ!」
「なにい!!」
あまりの驚きに、村雨は再度煙草を取り落とした。
龍麻はといえば真っ赤になって襟元を押さえている。
「先生っ!マジか!一体っ…」
「ああそーだよっ!どーせ俺は肌白いよっ!!ちくしょー、気にしてんのにっ」
「…は?」
「俺だってもっとお前等みたいに図体でかくて浅黒くって漢らしくなりてーよっ」
「…いや、先生……先生の肌が白いのは一目瞭然じゃねぇか…」
村雨は龍麻の肩にポン、と手をおいた。
「焦ったぜ…先生に彫り物あるんなら是非にでも拝ませて貰わなきゃなんねぇと……」
「なんで俺が刺青しなきゃなんねーんだよ。あんな痛そうなの」
「それをわかってて俺にふってんのか先生」
「いーじゃん。自分のシマの見回りとかしてて、喧嘩してる奴がいたらさ、遠山の金さんの如く!『この桜吹雪を見忘れたたぁいわせねえぜ』とかってな♪あのよろし〜(笑)」
「…桜は『みなしの』だぜ先生(失笑)」
「!!はああっ!!そーかっ!」
……よほど不覚だったのか、しばし固まる龍麻。その様子に村雨は笑いを抑えられない。
「くくっ…ああ、しかし桜ってのもいーかも知れねぇな」
「おー。きっと似合うぜ、村雨なら」
「…俺が言ってるのは、あんたに、だよ。……なあ?俺でよけりゃ、先生に彫ってやるよ、桜吹雪」
「だから俺はいいっての。って、しかもなんでお前が彫るんだよ」
「痛くしねぇぜ?」
「!!!!遠慮するわこのバカ!」
1テンポ遅れて意味を察した龍麻が村雨に蹴りを入れる。
本気でない蹴りを軽く受け止めて、なおも不敵な笑いを浮かべる村雨。
「しかし、そーだな…もし俺が先生のお望みどおり彫り物入れるんなら、華の類も捨て難いがな…」
「お前なら絶対華だろ」
「いや、背中にでかく龍を入れて、さらに勘亭流で『緋勇龍麻命』とか入れてもらうってのもな」
「――――――村雨!俺が悪かったっ!俺が悪かったからーっ!」
 
…龍麻が村雨に縋り付くなどという珍しい光景が、この日の新宿でお目にかかれたという。
 
 
 
 
 
 
End.   



 
里山です(笑)。
この「のどかとは〜」,里山がCGIテスト用に設置した「物語作成用掲示板」のテスト時の過去ログです。
当時まともに動かなかったり(改造するから…)カキコの表示が上下逆になって読みにくかったりといろいろあって,この過去ログの場合,遠山皐月様にテストに付き合ってもらいつつストーリーとまったく関係ない事までカキコしていった挙句,途中はメールでやりとりしてたという(爆)「とてもそのままでは読めません」という代物でした。
ヒマになったら(なりません)リライトしてアップさせよーと思ってたら遠山様がリライト引き受けてくれたので,さっそく載せてみました(笑)。……龍麻が馬鹿っぽーい(死)。
つーか口調みれば判るかも。龍麻の台詞は殆ど俺です(爆死)。
この「物語作成用掲示板」のコンセプトは,「如何に相手をへこませる発言をするか」にかかってます(と勝手に)。話をずらさないようにするのが,1人で話作る時と違って案外気を抜けなくて楽しいのですが(笑)。
ちなみに,俺的に一番へこまされた台詞は「『みなしの』つっこみ」です(自爆じゃないか)。あまりの不覚さに管理者権限で過去ログ消しにいこうと思ったくらい(殴)やられました。二番目は…勘亭流はねえよなあ……(笑)
 



遠山皐月と申します(^^)。
今回、僭越ながらリライト(といっても、セリフまとめただけ)させていただきました。
CGIってなかなか大変そうでした。テストしてても最新カキコが上にきちゃったり、カキコされてないと思ったらログページの方に最新カキコが送られちゃってたり(笑)、発言数がカウントアップしなくなったりと。なるほど、きちんとCGI動かすのって、かくも大変なものなのですね、とリアルタイムで体験(^^; 
「相手をへこませる」のはもうこの手の会話型では基本でしょう!(爆) 私も結構「龍麻」にはやられました。ええ。「見たのかよ!」にはマジで驚きましたし…。
「意外な発言」対「意外な発言」はやってみると結構くせになります。今、このCGIはきちんと(??)設置してあるので、みなさんも機会があったらすず師匠をへこませにいきましょう!(笑) (←里山:なんで俺へこますんだよ!)